タノシマントスの憂鬱  62

楽しまなくてはと考えている君は

有能で勤勉なビジネスマンに似ている

情報を集め 電話をかけ 手帳に書き込み

自由になる一日とか一晩とかのために

最上のプランを立てようと心を砕く

 

どれだけ楽しめたかと思い返している君は

株主総会を控えた経営者に似ている

そんなに楽しくなかったので君は憂鬱だ

十分に楽しんだと報告書に書けないことが

君の心をいっそう憂鬱にする

 

楽しまなくてはと考えているとき

君はほんとうの君だろうか

楽しめなかった君は ほんとうの君だ

君自身の 君自身による 君自身のための楽しいプラン

それが またしても君を裏切る

それが 何ものかに君を引き渡す

 

楽しみを追い求めて街を行く

君の姿は苦行者に似ている

楽しもうとすることに疲れ果てた君の心が

街角のベンチの上で つかの間 空白になるとき

風のように吹き抜けていくものを君は見ているか