アワビのうた  39

       ――我は思ひ人は退(の)け引く是(これ)や此(この)、波高(なみたか)や荒磯の、  

           鰒(あはび)の貝の片思(かたおもひ)なる――

 

きみの愛するひとが きみを愛してくれないとき

きみは なにによって それにたえるか

きみがそのひとを愛しているということ

そのことによって たえるしかない

 

きみの愛せないひとが きみの愛をもとめるとき

きみは なにをもって それにこたえるか

しつこいセールスマンをとがめるまなざしか

もとめられている愛とはちがう愛か

 

きみの愛せないひとが きみの愛をもとめるとき

愛のかわりに きみがあたえるもの

それとおなじものを きみは 愛のかわりにうけとれ

きみが愛しているのに きみを愛してくれない あのひとから

 

きみの愛せないひとにも きみを愛することは ゆるされている

きみは こころして その愛にたえるがよい そして――

きみが愛しているのに きみを愛してくれない あのひとを

これからも愛しつづけるための知恵をまなぶがよい