「変な人」対ヒマジンガー  13

職場で机に向かっていると 同僚たちが騒いでいる

「精神分裂じゃないか」

「役所というところは変な人がよく来るねえ」

ありがたいことに わたしは人間に対する好奇心が強い

十年以上も閑職にあって エネルギーも十分

窓口で「変な人」をもてあましていた同僚たちは

わたしが応対を買って出ることを歓迎するが 腹の中で

「変な奴同士でちょうどいいや 毒を以て毒を制すとはこれだな」

と思った連中もいるに違いない

 

さて その「変な人」と話してみると

なるほど まんざら変でなくはない

「東急と京浜急行と どちらが大きいと思いますか」

と訊くので

「よく知りませんが 東急の方が大きいんじゃないでしょうか」

と答えると

「そうですか」

と言って すぐまた 

「東急と京浜急行と どちらが大きいですか」

と同じことを訊く

まんざら変でなくはないが

わが人生は 多種多様な「変な人」とのつき合いの歴史であった

これくらいのことに驚くわたしではないのだ

「さっきも言いましたように 東急の方だと思いますが……」

「そうですか…… それでね 京浜急行知ってますか あれと東急と どちらが大きいでしょう」

「うーん ま やっぱり 東急じゃないかと思うんですがねえ」

 

彼とわたしとのやりとりを見ている同僚たちのニヤニヤ笑いは卑しい

わたしが頬の筋肉をこのようにゆるめるときがあったら

それはわたしが本質的な思考を放棄しているときだ

 

「変な人」の話題は 私鉄の規模から爆弾犯人の追跡へと飛ぶ

「指名手配になってるカトーサブロー 知ってますか」

「はあ 名前だけは」

「この間 警視総監から秘密の指令を受けまして いまあれを追っています」

「なるほど」

一日じっくりつき合えば かなりのことがわかるだろう

そう思いながら わたしは耳を傾けているが

同僚たちは早くもいらだち始め

この「変な人」を追い返してしまう

「あんなのの相手をしてちゃ仕事にならないよ」

 

わたしたちのしている「仕事」などよりは

彼の相手をすることの方が ほんとは よっぽど意味があるのだが

わたしの感想は冗談としか受けとられない

わたしがあくまで本気であることが人々にわかれば

わたしがいつまでここにいられるか あやしいものだ