クジラとゴジラ

        (ヒマジンガーZのはじめにことばあるき 2007-11-22記)

 

  京浜急行北品川駅の改札口の前にある「旧東海道品川宿」の案内図に「ゴジラ上陸地点」の文字を見つけたのは、寛政十年(一七九八年)に品川の海で仕留められたクジラの頭部を埋めたという場所を訪ねた日のことである。「ゴジラ上陸地点」とされている八ツ山橋と、クジラの塚がある利田(かがた)神社との距離はわずかに五百メートル。ゴジラとクジラの縁はまことに深い。

ゴジラ  一九五四年(昭和二九)の東宝映画の題名。またその主人公である怪獣の名。太古より海底で眠っていたゴジラが、水爆実験によって目覚め都市を破壊するという筋。当時としては画期的な特殊撮影で大ヒットした。(「ゴリラ」と「クジラ」から作られた語)

 ゴジラについて『大辞林』は上のように説明している。「ゴリラ+クジラ→ゴジラ」のネーミングは、映画界にいた、ある人物のあだ名になっていたのを、ゴロがよいからと借用したものだという。ゴジラの先輩にあたるキングコングは巨大なゴリラだと言ってよいし、クジラは海中にすむ動物としては最大のものだから、海から現れる巨大怪獣の名としてゴジラはぴったりだ。

 そのゴジラの「上陸地点」が、北品川駅と品川駅との間に位置する八ツ山橋とされているのは、海岸地帯から高台の方へ逃げようとする住民が八ツ山橋に殺到するシーン、その後ゴジラが八ツ山橋を踏みつぶすシーンが映画の重要な見せ場になっているからだろう。また、JR品川駅の1番線ホームにゴジラのシルエットを描いたタイルがあるのは、ゴジラが八ツ山橋に向かう前に品川駅で大暴れしたのを記念(?)してのことに違いない。

 だが、八ツ山橋にせよ品川駅にせよ、海から遠くないとはいえ直接海に面していたわけではないから、厳密な意味での「ゴジラ上陸地点」は別の所だということになる。それはどこか。

 東京湾に入ったゴジラがまず襲うのは第二台場の灯台である。幕末に海防のために築かれた台場の中には陸続きのものもあるが、第二台場は陸続きではないから、ここを「ゴジラ上陸地点」とするのはうまくないように思う。

 あらためて「ゴジラ上陸地点」を定めるとすれば、この第二台場と次にゴジラが現れる品川駅とを結ぶ線が一九五四年(ゴジラ出現の年)当時の海岸線と交差するあたりとするのが適当だろう。では、その第二台場はどこにあったか。

  東京湾に今も残る台場は、「お台場海浜公園」の一部になっている第三台場と、その西に位置する第六台場の二つしかない。この第六台場の西に第二台場があったのだが、船舶航行の邪魔になるというので一九六一年に撤去され、これに続いて、さらに西にあった第五台場と第一台場が埋め立てにより消滅した。ゴジラが襲った第二台場の位置は、今も残る第六台場とその西の品川埠頭との間になる。

 第六台場は陸とつながっていないから歩いては行けないが、レインボーブリッジの南側遊歩道から見下ろすことができる。何年か前ここを通るのに三百円の通行料を取られた記憶があるが、先日ふたたび行ってみると無料になっていた。