おみ九字
はれたはるのひ ははつれはせへ はやはらはらと はながちる (晴れた春の日 母連れ長谷へ はやはらはらと花が散る)
ののみちをきて のなかのいえの のきばのいどの みずをのむ (野の道を来て野中の家の軒端の井戸の水を飲む)
ねぎのたねまく あねいうあのね みねのかねのね よいねだね (葱の種蒔く姉言う あの音 峰の鐘の音 よい音だね)
ぬのをぬらすな ぬれてはぬえぬ ぬうはかりぎぬ ぬのはきぬ (布を濡らすな 濡れては縫えぬ 縫うは狩衣 布は絹) ぬれたきぬぬげ みがぬくもらぬ ぬれぬきぬきよ なくばぬえ (濡れた衣脱げ 身が温もらぬ 濡れぬ衣着よ 無くば縫え)
にしへゆくにと にしからきたに にしんにじます うににかに (西へ行く荷と西から来た荷 鰊 虹鱒 海胆に蟹)
ななめにかかる なないろのにじ なずななのはな かなたまで (斜めに懸かる七色の虹 なずな 菜の花 彼方まで)
とびよはとよと とぶとりをおう おとめとあとを おうおとこ (鳶よ鳩よと飛ぶ鳥を追う乙女と後を追う男)
てらでてんてん てまりをついて てとてあわせて てらをさる (寺でてんてん手毬をついて手と手あわせて寺を去る)
つつじさくつじ つとむねをつく おもいつつまず つれにつげ (躑躅咲く辻 つと胸を衝く想い包まず連れに告げ)
ちちがちちぶで かううしのちち のめばたちまち ちからわく (父が秩父で飼う牛の乳 飲めばたちまち力湧く)
たうえおえたた あしたうえるた みずをたたえた たがみえる (田植え終えた田 明日植える田 みずを湛えた田が見える)
そこのそばやの そばこそそばと そばのそばやに めをそそぐ (そこの蕎麦屋の蕎麦こそ蕎麦と傍の蕎麦屋に目を注ぐ)
せくなせかすな せのにをおろせ せせらぎさがせ あせながせ (急くな 急かすな 背の荷を下ろせ せせらぎ探せ 汗流せ)
すすむなすのの すすきにすだく すずむしのねに みみすます (進む那須野の薄に集く鈴虫の音に耳澄ます)
しいのはやしの はしからはしへ ししがのしのし のしあるく (椎の林の端から端へ猪がのしのし のし歩く)
ささがさらさら さわやかなかぜ おがわさらさら ささのふね (笹がさらさら 爽やかな風 小川さらさら 笹の舟)
ここにかしこに ころがるこのみ ここのつとおと こらのこえ (ここにかしこに転がる木の実 九つ十と子らの声)
けむりみつけて かけつけけすひ がけのたけやぶ やけただけ (煙見つけて駆けつけ消す火 崖の竹藪焼けただけ)
くらくなるまで くさぶえをふく くれてくりやく くりをくう (暗くなるまで草笛を吹く 暮れて栗焼く 栗を食う)
きつつきききに きたきりのなか むらさききりの はながさき (啄木鳥聞きに来た霧の中 紫 桐の花が咲き)
かものかわかみ しかけにかかる さかなはあゆか こいかふな (賀茂の川上 仕掛けにかかる魚は鮎か鯉か鮒)
おきにおおきく おきみえるおか きぎのあおばの おおうおか (沖に大きく隠岐見える丘 木々の青葉の覆う丘)
えのきあるいえ さかえるいえは さなえうえおえ えがおみえ (榎ある家 栄える家は 早苗植え終え 笑顔見え)
うみううみねこ うおおううみの うえにうかんだ うりひとつ (海鵜 海猫 魚追う海の上に浮かんだ瓜一つ)
いずのいでゆの いこいのいえの いけでみている あかいこい (伊豆の出湯の憩いの家の池で見ている赤い鯉)
あめにあおあお あおばのあいだ あじさいあわい あおとあか (雨に青々 青葉の間 紫陽花 淡い青と赤)